【群馬へ】朝に恋をする
眠れない夜は心の向くままに手が動く。頭が動く。
そうして夜が更けて、さあ寝るかと電気を消してカーテンを開けた。
そこには思わず固まってしまうほど美しい朝焼けが広がっていた。
しばらくぼおっとその朝焼けに見惚れていた。
布団に入って今から寝るか、外へ出るかと悩み、数秒後私はカメラと鉛筆とノートを片手にドアに手をかけていた。
朝っていうのは、ああ、なんでこんなにも美しいんだろうか。
歩きながら浮かんだものにただ手を走らせていく。
この儚い、数分、数秒の世界が今この瞬間だけは自分のためにあるようにさえ思える。
私と動物たち、自然しかそこには存在しない。建物も人間も寝ていて、車でさえ走っていない。
声高らかに歌う鳥の声がこんなにも大きく聞こえたことがあるだろうか。
太陽を目指して足が歩く。
何かに急かされるように、次第に歩みが早くなる。
ついさっきあの美しい夜を体験したばかりだというのに。
夜と朝の時間があれば私はそれでいい。
ああ、何と美しいのか。
恋に落ちてしまったのだろうか。
私は今、朝に恋をしている。
日が昇り始める。
今日の日に生まれたばかりの光は、こんなにもやさしく、やわらかい。
肌に触れる煌々とした光は、わずかな質量をもち、その言葉の通り私の肌に触れている。
その額や頬、鼻先へと形を持った空気のそのあたたかさが…
つばめたちがえさを探している。
こんなにも心惹かれるのに、その光を見つめることはできない。
切なくも、肌で感じるこの温度を受け取ることしかできない。
ダックスフンドと散歩をしているお父さんと朝のお話をした。
「写真撮ってるの?」
「そうなんです。朝があまりにきれいだったので…」
「そうなんだ、それなら、この道をずっとまっすぐ行って、消防署を過ぎたとこからが一面田んぼだからきれいだよ」
「ほ~そうなんですね。次に起きれた時は行ってみます」
「うん。あと、夕日だったらあっちを抜けていったところからだと、ダイヤモンドフジみたいに撮れるかもね。まぁ、年に一回か二回くらいしか撮れないかもだけど…」
「ありがとうございます。」
「うん、じゃあ。いい写真が撮れるといいね」
「はい」
二毛作をする群馬ではこの時期、田んぼには小麦が揺れている。
その一面の金色の、真っ白なかがやきは……
すれ違う人と朝の挨拶をしながら家へと足を向ける。
背中に朝を感じる。
この不思議な時間帯は、人も少しやさしくなる。
この短い一、二時間ほどの散歩が今日の始まりなのか。
コーヒーでも飲みながら本を読みたいな。
おはよう。朝よ。