【エッセイ】カーテンから忍び込む恋の音
人に惹かれる私は、いろんな経験をしてきました。
恋とも愛とも、言葉にできない関係の海を泳いでいます。
関係に名前がつかないけれど、とても大切な繋がり。
そんな中のひとつのおはなしです。
きっと誰でもいいんだろうね、半分眠りに落ちかけていた私の耳が拾ってしまった音。すこし丈の短いカーテンの隙間から夜の色が肌の上を照らす。
それって私?きみ?無意識に動いた言葉が唇を滑って流れ出る。
意味なんて知らない。知りたくない。
夢の向こう側にいるのかこちら側にいるのか、ぼんやりした声が、そこにいる人、と答えた。
本当は、その眉毛の形も、指が動く先も、唇の厚さも、肌に触れる温度も、スマホを追いかけるその瞳も、長いまつげも、陽の明るさが肌を照らす輝きも、その時間を全部覚えていたい。
けれどどうにもならない私は、何でもないふりをしながら横目できみを見ることしかできない。きみは何も教えたがらないから。
歌を歌う君の、題名も知らない曲の歌詞を忘れないように頭の片隅に置いて、きみがいなくなったときにすぐyoutubeを開いたりする。
そんなことをしながらきみの足跡を辿っていくのが好きだ。
さみしんぼだね、ぼくたち。
さみしがり屋な私たちは今日も肌をただくっつける。
夜と朝の間に特別な時間があることを私たちは知っている。
目線が交わるとき、世界がつながるのは何秒なのか何分なのか。瞬きした次の瞬間にはふ、と目をそらして自分の世界に戻る。
けれどまた、どちらからともなく世界がつながる。
それは呼吸と似ている動作。
きみがいない部屋できみの名残を追いかける。
ぼうっと天井を見ながら曲を聴く。
さよならも、ばいばいも、またねも、言わない。
次の約束はお互いにしない。
明日会えるのかも明後日なのかも一年後かなのかももう会えないかも分からないけれど、さみしんぼな私たちはきっとまた会うだろう。
そうして私は忘れないようにただ指を走らせる。
いつか消えてしまう記憶だったとしても。